身体(karada) hack

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手掌診の意義

こんばんは。karada89です。

 

 FT診断の大きな特徴として手掌診があります。入江正先生の大きな功績の一つがこの手掌診だと考えています。

 

 手掌診は大枠で身体のどこを、またはどの反応を優先して治療を行うのかを決定する大事な大事な診断法です。この手掌診を行うことで無駄な治療の手数を減らすことができますし、そして目先のstや症状に囚われずに何の病態を優先して治すべきかも判断できます。誤診を減らすためにも行ったほうがいいものです。

 

 どういうものかというと、患者の手掌をセンサーを当てながらFTをするのですが、まず左右の比較をします。左手は左半身の異常、右手は右半身の異常が現れます。左右の手掌を比較してよりstが強い方の手掌を更に詳しく分割して、上焦·中焦·下焦に分けてその三つのどれが一番stかを診ます。

 上焦の反応が示すものは主に上半身の異常や風邪の初期症状などです。花粉症や風邪で頭痛や鼻水が主訴の場合などにstが出ます。肩こりで自覚症状がある場合も同様です。

 中焦の反応は腹部の痛みや内蔵の症状など。糖尿病や肝炎に由来するだるさや不眠などで出たりします。単純に食べ過ぎてお腹が痛いなどでも出ます。

 下焦は腰から下の症状です。腰痛や膝痛はもちろん、膀胱炎や痛風による症状などです。

 このように自覚症状をどこに感じているかで手掌で一番強く反応が出るポイントが変化します。(手掌の上焦・中焦・下焦の区分けはFTの教科書に載っています。)

 

 

 先日右腰部痛の患者が来院してきました。普段からそれほど腰痛になる要素が少ない方で、パッと見で治るまでそんなには手間はかからないだろうと踏んで治療にあたりました。この時、時間がなく急いでいたので手掌診はせず問診と愁訴診から判断して治療を開始しました。

 その時点での診断は胸腰椎の歪みと仙腸関節の異常。右水・土・金の経筋病、軽い右胃メインの経脈病でした。各種治療を施し、患部のstがsmに変化したことを確認して患者をベッドから座位にしたところまだ起き上がるのが辛そうでした。こんなはずではなかったのに~。

 改めて座位の患者の背後に回り患部をFTしてもやっぱりそれほど強いstは感知できません。

 治療時間は限られているので焦りましたが患者をそのまま座らせたまま手掌診を行ったところ右下焦に寒邪の反応が残ってました。結構強かったですね。でも患部には寒邪の反応はありませんでした。そこで患部(愁訴部)を面でなく線で、つまり患部を通過する経脈(膀胱経)と帯脈の経脈診を行ったところ、膀胱経上に寒邪の反応を感知しました。

 

 私は(も?)患部のstがsmになれば、治療効果の持続性はともかくその場の痛みは消えるものだと短絡的に考えていた時もありました。しかしそれは浅はかな考え方であり、手掌診断を軽視していた現れでもありました。

 手掌部、脈診部、腹部、胸部、大腿部(前面)、頭部(百会や角孫など)を治療後に確認する重要性は正書に記載されているのに、現場の忙しさのせいにしてそれらを怠っていました。このような症例を経験したおかげで手掌のstを消去することで治療のやり直しを防げる確率が高まり結果的に臨床での焦る気持ちが少なくなったのです。

 

 上記の患者はその膀胱経の寒邪を抜くために下腿部に温熱鍼で刺激を加えて立ち上がってもらったらほぼ痛みが消失しました。手掌部の下焦ももちろんsmでした。

 

 身体の大枠をみてどのstを優先的に除去していくか、というのが大切で、患部のstを出発点としてしまうと治療が泥沼化してしまいます。

 例えば患部に骨格の歪みのみの反応があったとしても、手掌診では胃腸の反応が一番stであればそちらを優先して治療すべきです。その後に患部と手掌を改めてFTをして骨格の歪みで共通していれば最後の仕上げで歪みの反応を除去するとスッキリ痛みが取れる確率が高いです。またこのように治療を進めた方が症状の再発率も下げることができます。

 

 局所は局所で必要とする刺激があるのは確かですが、それとは別に身体全体としてまず優先してほしい刺激があるのです。身体を治すための司令部がどこかにあってその司令部の要求に従って治療をしていく方がいいです。司令部が脳にあるのかわかりませんけど、その情報を効率よく得ることができるのが手掌なのではないかと考えます。